前項で述べたとおり、ストレスにより体内では色々なホルモンの分泌やそれによって色々な反応が生じますが、これには人類の進化の過程で備わった機能によるものと言われています。

 人間は狩猟により動物性の蛋白質や脂肪を摂取したり、農耕等によりで炭水化物、植物性蛋白質や脂肪、ビタミン、ミネラルなどを摂取して生き延びて進化を続けました。特に狩猟の際は命がけで闘う中で獲物を倒して食肉を得るわけですが、例えば草原や森林の中を独りで歩いているときに突然マンモスに遭遇した場面を思い浮かべてみてください。その驚きと瞬間的に高じるストレスは計り知れないものがあります。私たちの祖先は、過去の経験により知り得た知見から「独りではマンモスを倒せない」と判断すると、猛スピードで逃げ帰るようにします。一方、何人ものチームでマンモスを倒しに行く場合は、それぞれが役割に沿って力を合わせて向かっていきますが、一つ間違えれば死に繋がりますから、これもまた高いストレス状態ですね。このように、闘うか逃げるか、いずれにせよ人間の持つ力を最大化させる必要があります。

 これを「Fight Flight Response」と呼びます。

 前述の例では、人間がマンモスと闘うにしても、逃げるにしても、非常に高いストレス下で肉体の力を最大限に発揮しなければなりません。そのために交感神経が優位な状況では、1-4項の図の①から⑨の反応が起こります。すなわち、闘う力や逃げる力を発揮するために以下のような機能を備えるように進化したというわけです。

・筋肉に酸素を潤沢に供給するために、呼吸数と心拍数が増加

・肺に酸素をしっかり取り込むべく気管支が拡張

・闘ったり逃げたりするエネルギー源として糖の産生と脂質代謝促進

・傷を負った時の出血を最低限にするために末梢血管を収縮したり、血液凝固能を亢進

・排泄などをしている場合ではないので消化活動、尿の産生、生殖機能等を抑制

 これらを学ぶと、スポーツマンは競技会などに参加して闘いの火ぶたが切られたときに、多少緊張感があって、交感神経優位の状態を作り出さなければパフォーマンスが発揮できない、ということも分かります。これも一種のストレスの効能ですね。ヒトは進化の過程でストレスを感じた時に適切な対応を行えるような機能を備えてきているので、プラスに使える範囲で活用し、身体に有害な反応が出るほどの過剰なストレスは溜めないことが重要です。