1-3項で「NIOSHの職業性ストレスモデル」について解説しました。ここではストレスが継続して加わった結果、身体症状や疾病に繋がることを示しましたが、メンタルヘルス疾患は大別すると「精神病」と「精神障害」に分類されます。「精神病」は遺伝的要素が影響したり等内因性の病気で、統合失調症や躁病、うつ病、躁うつ病などがこれに分類されます。「精神障害」は生活や仕事など取り巻く環境等の主として外因性の病気・病態で、不安障害、適応障害、解離性障害、各種神経症(ノイローゼ)などがこれに分類されます。

 以下に、メンタルヘルス疾患の主なものを解説します。

【主なメンタルヘルス疾患】

(1)うつ病

 脳内でセロトニンという神経伝達物質が代謝異常となる(分泌量が減る)等、脳の障害で感情が正常に機能しなくなった状態をいい、職場の精神疾患のおよそ94%を占めると言われています。

【身体症状】

  • 睡眠障害

 多くの人に現れる症状が睡眠障害で、入眠困難(寝付けない)、中途覚醒(夜中に目が覚めてしまいその後も眠れない)、早朝覚醒(まだ寝ているべき早朝に目が覚めてしまいその後も眠れない)、或いは睡眠過多になるなど、睡眠が通常と異なる状態になります。

  • 食欲鈍化

 多くの場合に食欲低下が続いたりします。その結果、5~10㎏の体重減がみられることもあります。また、好物でも食べたいとも思わないし、味がわからない時もあるようです。

  • 易疲労性

 さほど体を動かしていないのにひどく疲れたり、全身が重くけだるい感じが続いたりします。

  • 自律神経症状・消化器症状

 頭全体が締め付けられるような痛みを感じたり、寒くて震えたり、体がほてったり、微熱、肌荒れ、腹痛、便秘・下痢などといった不定愁訴が現れたりします。

【精神症状】

  • 抑うつ気分

 気分が沈んだり、生きている実感が持てなかったり、孤独感に襲われたり、生きていることが辛く滅入る・寂しいなどの抑うつ気分が続きます。

  • 関心・興味が減退し、今まで楽しめたことも楽しめなくなったりします。
  • 社会的関心の低下

 人に会いたくないとか、テレビや新聞を見る気になれないなど、社会との関わりを切りたくなったりします。

  • 作業能率の低下

 これまで苦も無くできたことができなくなったり、思考がまとまらなくなったり、頭の回転が落ちたりする他、作業等でも必要以上に時間がかかったり、ミスの増加などが起こります。

  • 意欲・気力の減退

 何をするのも億劫になったり、頭を使うことを避けるようになります。また、集中困難、決断できないなどの変化が現れます。

  • 自責感、無価値観

 根拠なく自分を責めたり、過去の些細な出来事を思い出して悩んだり、時には自殺念慮を抱いたりします。

  • 日内気分変動

 一日のうちで朝が悪化しやすく、夕方以降から徐々に回復するような気分の変化が見られると言われています。

【留意点】

 本人や周囲の人がうつ病に気づくのは、多くの場合症状が中程度まで進んだ場合で、軽症の場合は身体症状の訴えのみのことが多いという傾向があります。うつ病の類型として、仮面うつ病(症状が軽く身体症状のみ)、抑うつ神経症(うつ病よりも軽微な症状が長期化し、悲哀感、絶望感、不安感などの症状)などもあります。

 うつ病の早期発見には身体症状の訴えを軽視しないことが重要で、また、重要な症状の一つに「飲酒量の増加」があります。今まで泥酔するほど飲まなかった人が泥酔したり、翌朝酒臭い状態で出勤したりといった変化に気づくことが重要です。

(2)躁うつ病(双極性障害)

 躁(そう)状態とうつ状態が繰り返される疾病が躁うつ病です。躁状態では気分が異常に高揚し、支離滅裂な言動を発したりすします。ただし躁状態は他の疾患でもみられるため、躁状態だけで躁病や躁うつ病と断定することはできないとも言われています。

【身体症状】

  • 睡眠障害

 入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒もあるようですが、寝なくても平気で活動的になります。

  •  活動量の増加

  食欲、性欲、社会的活動などの増加が見られます。

何事にも活力に満ちて行動できる誇大感を持つ一方、焦燥感も現れると言われています。

【精神症状】

  • 気分の変動

 気分が高揚し、誇大な気分になり、何でも自分が一番だといった万能感を持ちます。

時には些細なことで強いイライラを感じたり、自尊心が異常に高まります。

  • 過活動

 多動・多弁・金銭の無駄遣いといった行動の変化が多々見られると言われています。

  • 妄想

 感情の高揚から誇大妄想に陥ります。

  • 観念奔逸

 いくつもの考えが次々に湧いてきてまとまりがつかなくなったり、ものごとの本質を見失うことが多くなったりします。

  • 注意散漫

 気が散るだけでなく、注意が払えなくなります。

  • 問題が生じやすくなる可能性が高い快楽行動に熱中したりします。(買いあさり、性的無分別、ばかげた投資など)

(3)統合失調症

 主に脳機能障害に起因する内因性の精神病の一つで、従前は精神分裂病と称していました。統合失調症の特徴として、思春期から30代にかけての発症が多く、発症の確率は120人に1名の割合と言われています。根本原因は十分に解明されていないようですが、内因性精神病に分類され、遺伝的要因とストレス的要因の両方が関与していると言われています。

【統合失調症の類型】

  • 妄想型統合失調症

 20代後半以降に発症することが多く、顕著な妄想や幻覚(主に幻聴)が主な症状です。会話や行動の解体はなく、感情の平坦化も見られないのが特徴と言われています。比較的予後がよく、社会生活の維持ができることが多いようです。

  • 解体型(破瓜型)統合失調症

 思春期に緩やかに発症することが多く、解体した行動、周囲に対する無関心、感情の起伏の乏しさが主症状です。妄想や幻覚は比較的少ない反面、予後は比較的悪く社会生活の維持が難しいこともしばしばあると言われています。

  • 緊張型統合失調症

 20歳前後に急性で発症することが多く、極度の興奮、多動と混迷(意識障害)を繰り返すことがあると言われており、・同じ姿勢を取り続けたり、他人の言動を意味なく繰り返したり、人からとらされた姿勢を保ち続けるなどの症状も特徴の一つです。予後は比較的良いが再発も多いと言われています。

【主な症状】

   統合失調症の症状は陽性反応と陰性反応に大別されますが、特徴はそれぞれ以下のとおりと言われています。

  • 陽性反応

・心の中で通常見られない働きが発生

・幻覚(幻視、幻聴、体感幻覚などが現れると言われています)

・妄想(被害妄想、盗害妄想、罪業妄想などネガティブな妄想がほとんどと言われています)

・思考障害(思考途絶や支離滅裂な思考に陥ると言われています)

・精神運動性興奮

  • 陰性反応

・心の中で通常は存在する働きがなくなったり鈍化したりすると言われています

・感情の平板化(喜怒哀楽が乏しくなります)

・情緒的ひきこもり(無気力・無関心になったりします)

・疎通性の障害(他人とコミュニケーションできなくなると言われています)

・消極的・受動的になり意欲の低下が見られると言われています

・思考内容が貧困になり考えたり話したりし難くなったりします

 【病気の経過】

 統合失調症の症状の現れ方や経過は人によって異なるようですが、一般的には、前兆期、急性期、休息期、回復期のという4つの段階を経過し、その段階ごとに症状も異なるようです。ただし、これらは一方方向ではなく、休息期や回復期に病気を誘発するようなストレスがかかると、再び急性期の症状へと戻ったり(再発)しながら、また休息期、回復期へという経過をたどると言われています。また、繰り返し再発すると、休息期・回復期の経過期間が長くなると言われています。
 従前は統合失調症は予後が非常に悪い病気と考えられていました。しかしこの病気は早期に薬による治療を開始し適切に継続すれば、再発を抑えることができるようになったと言われています。現在では、治療効果の高いさまざまな薬剤が開発されたことや、また早期発見や早期治療が行えるケースも増えたことから、健康な人と変わらない生活を送る人が多くなっているようです。

(4)不安障害群

 不安感が中核症状である心理障害の類型であり、従前「ノイローゼ」とか「不安神経症」、「強迫神経症」、「恐怖症」、「心気症」などと呼ばれていた障害の延長線上の病気です。病院で検査しても器質的障害(身体疾患)が確認できないことが多く、精神症状も心因性との関連で左右されます。ここでいう「不安」とは、恐怖・身体的不快・身体的症状の主観的情動を意味します。中でも「パニック障害」は、不安が典型的な形をとって現れている点で、不安障害を代表する疾患と言われています。筆者も、これまでの社員のメンタルヘルス相談に対応した中では、うつ病の次に「パニック障害」が多いと実感しています。

【不安障害群の類型】

  • 分離不安障害(愛着ある人からの分離に過剰な恐怖を抱く)
  • 限局性恐怖症(特定の対象や状況への恐怖)
  • 社交不安障害(注目を浴びる社交場面に対する恐怖と不安)
  • パニック障害(突発的なパニック発作が起こり、女性の発症率が男性の2倍以上)
  • 広場恐怖症(交通機関や広場など特定の状況に対する恐怖)
  • 全般性不安障害(過剰な不安と心配)

【主な症状】

  • 特定できない漠然とした不安、ちょっとしたことで動悸胸内苦悶
  • 震えや自律神経症状を伴い強い不安感に見舞われたり、死ぬのではないかと考え更に不安を増幅したりする
  • またいつ発作がくるのかと不安になる(予期不安)という状態がある
  • 過呼吸になって倒れる場合もある

(5)心的外傷及びストレス因関連障害群(PTSD)

 PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、心のダメージとなって、時間が経ってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものです。震災などの自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因になると言われています。

【主な症状】

 突然つらい記憶が蘇えるというのが最も特徴的な症状と言われています。

 過去のつらい記憶としての事件や事故のことなどすっかり忘れたつもりでいても、ふとした時に、その時に味わった感情がよみがえります。それは恐怖だけでなく、苦痛や怒り、哀しみなどいろいろな感情が混じった記憶です。周りからみると、何気ない会話や日常生活の中で突然感情が不安定になったり、取り乱したり涙ぐんだり、急に怒り出したりするので、理解に苦しむことになります。その事件や事故を、もう一度体験しているように生々しく思い出されることもあるようです。

 また、常に神経が張り詰めていて、つらい記憶がよみがえっていない時でも緊張が続き、常にイライラしたり、ささいなことで驚いたり、警戒心が過度に強くなったり、ぐっすり眠れない、などの過敏な状態が続くようになったり、同じような怖い夢を繰り返し見ることもあるようです。

(6)適応障害

 適応障害は、ある特定の状況や出来事が、その人にとってとてもつらく耐えがたく感じられ、そのために気分や行動面に症状が現れるものです。たとえば憂うつな気分や不安感が強くなるため、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になったりします。また、無断欠席や無謀な運転、喧嘩、自傷行為や物を壊すなどの行動面の症状がみられることもあると言われています。
 ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているので、その原因から離れると、症状は次第に改善すると言われています。しかし、ストレス因から離れられない、取り除けない状況では、症状が慢性化することもあるようで、そういった場合は、カウンセリングを通して、ストレスフルな状況に適応する力をつけることも、有効な治療法と言われています。

【主な症状】

 ICD-10(国際疾病分類第10版)の診断ガイドラインによると、抑うつ気分、不安、怒り、焦りや緊張などの情緒面の症状があると書かれています。行動面では、過度の飲酒や暴食、無断欠席、無謀な運転やけんかなどの攻撃的な行動がみられることもあります。子どもの場合は、指しゃぶりや赤ちゃん言葉などのいわゆる「赤ちゃん返り」がみられることもあります。不安が強く緊張が高まると、体の症状として動悸がしたり、汗をかいたり、めまいなどの症状がみられることもあるようです。
 適応障害ではストレス因から離れると症状が改善することが多いようです。たとえば仕事上の問題がストレス因となっている場合、勤務する日は憂うつで不安も強く、緊張して手が震えたり、めまいがしたり、汗をかいたりするかもしれませんが、休みの日には憂うつ気分も少し楽になったり、趣味を楽しんだりできる場合もあります。

 近年「新型うつ病」と言われていた人の中に「適応障害」の人も多く含まれていたものと推測できます。

 しかし、うつ病になると環境が変わっても気分は晴れず、持続的に憂うつ気分は続き、何も楽しめなくなると言われており、これが適応障害とうつ病の違いのようです。持続的な憂うつ気分、興味・関心の喪失や食欲の低下、不眠などが2週間以上続く場合は、うつ病と診断される可能性が高いと言われています。

(7)パーソナリティ障害

 パーソナリティ障害は、大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんでいたり、周りが困っているケースに診断される精神疾患です。認知(ものの捉え方や考え方)や感情、衝動コントロール、対人関係といった広い範囲のパーソナリティ機能の偏りから障害(問題)が生じるものです。パーソナリティ障害の人は極端な性格傾向に誤解されがちですが、注意したいのは、「性格が悪いこと」を意味するものではないということです。
 パーソナリティ障害には、他の精神疾患を引き起こす性質があります。パーソナリティ障害と合併したほかの精神疾患が前面に出ることが多いので、パーソナリティ障害は他の精神疾患の引き金になり得る病気だと言われています。
 最近の研究発表では、この障害は経過中に大きく変化する、治療によって改善する可能性が高いものと考えられるようになっているようです。

【3つの分類】

 アメリカ精神医学会の診断基準では大きく分けて、次の3つに分類されているようです。以下にそれぞれを細分し特徴を書きます。

●A群(奇妙で風変わりなタイプ)

 妄想性パーソナリティ障害 (広範な不信感や猜疑心が特徴)

 統合失調質パーソナリティ障害 (非社交的で他者への関心が乏しいことが特徴)

 統合失調型パーソナリティ障害* (会話が風変わりで感情の幅が狭く、しばしば適切さを欠くことが特徴)

*ICD-10には書かれていないもの

●B群 (感情的で移り気なタイプ)

 境界性パーソナリティ障害 (感情や対人関係の不安定さ、衝動行為が特徴)

 自己愛性パーソナリティ障害 (傲慢・尊大な態度を見せ自己評価に強くこだわるのが特徴)

 反[非]社会性パーソナリティ障害 (反社会的で衝動的、向こうみずの行動が特徴)

 演技性パーソナリティ障害 (他者の注目を集める派手な外見や演技的行動が特徴)

●C群 (不安で内向的であることが特徴)

 依存性パーソナリティ障害 (他者への過度の依存、孤独に耐えられないことが特徴)

 強迫性パーソナリティ障害 (融通性がなく、一定の秩序を保つことへの固執(こだわり)が特徴)

 回避性[不安性]パーソナリティ障害 (自己にまつわる不安や緊張が生じやすいことが特徴)

【主な特徴】

 医療機関を受診するケースが最も多いのは、若い女性に多くみられる境界性パーソナリティ障害のようです。境界性パーソナリティ障害の人は、しばしば自殺未遂や自傷行為を行うことがあるので、救急医療機関につながるケースも少なくないようです。

                                  パーソナリティ障害の原因は、まだ十分に解明されていないようですが、現在急ピッチで解明が進められているようです。養育者が身近にいられなかったなどの養育環境が不十分だったことや、養育期につらい体験をしたことなどが、発症と関連しているとも言われています。

(8)薬物依存症

 薬物依存症とは、大麻や麻薬、シンナーなどの薬物をくりかえし使いたい、あるいは使っていないと不快になるため使い続ける、やめようと思ってもやめられないという状態と言われています。こうなると日常生活に支障が出てもやめられない、また薬物を手に入れるためになりふりかまわなくなるといったことが出てくるようです。
 欲しいという欲求が我慢できなくなる精神的依存、クスリがなくなると不快な離脱症状が出る身体的依存があり、また、体がクスリに慣れてくるため、同じ効果を感じるためにクスリの量が増えてしまうと言われています。一度だけのつもりでも、気がつくと薬物依存症になってしまうことがあるようです。また一度やめても、また手を出してしまうこともあり、クスリをやめた後も、二度とやらないという強い気持ちが必要と言われています。

(9)発達障害

 発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違っているために、幼児のうちから症状が現れ、通常の育児ではうまくいかないことがあると言われています。

 ですが、発達障害はその特性を本人や家族・周囲の人がよく理解し、その人にあったやり方で日常的な暮らしや学校や職場での過ごし方を工夫することが出来れば、持っている本来の力がしっかり生かされるようになります。

【主な類型と特徴】

●自閉症スペクトラム

 自閉症スペクトラム障害の人は、最近では約100人に1~2人存在すると言われています。男性は女性より数倍多く、一家族に何人か存在することもあるようです。

 自閉症、アスペルガー症候群、そのほかの広汎性発達障害がこの類型に含まれます。スペクトラムとは「連続体」の意味だそうです。典型的には、相互的な対人関係の障害、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏り(こだわり)の3つの特徴が現れると言われています。 

 ●注意欠如・多動性障害(ADHD)

 発達年齢に見合わない多動‐衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状が、7歳までに現れると言われています。学童期の子どもには3~7%存在し、男性は女性より数倍多いと言われています。男性の有病率は青年期には低くなりますが、女性の有病率は年齢を重ねても変化しないと言われています。

 ●学習障害

 全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の事柄のみがとりわけ難しい状態をいいます。有病率は、確認の方法にもよりますが2~10%と見積もられており、読みの困難については、男性が女性より数倍多いと言われています