厚生労働省の2018年の調査結果から、「強い不安、悩み、ストレスがある」労働者の割合は58%で、

・男性:59.9%

・女性:55.4%

となっており、1982年の調査以降継続して50%以上を上回る結果になっております。社員の雇用形態別で見ますと、

・正社員61.3%

・契約社員55.8%

・パート39.0%

・派遣社員59.4%

となっております。

その「不安、悩み、ストレスの原因」として挙げているものの多い順では、2012年調査では

・男性:①職場の人間関係、②仕事の質、③仕事の量、④会社の将来性

・女性:①職場の人間関係、②仕事の質、③仕事の量、④仕事の適性

となっておりましたが、2017年以降の調査ではまとめ方が異なっており、2018年調査結果は下表のとおりとなっております。

 上表では仕事の質・量では男女差はなく、役割り・地位の変化については男性がストレスを感じている割合が多いのに対して、女性の方は相対的に少ない反面、セクハラ・パワハラを含む対人関係については女性の方がストレスを感じている割合が高いのが特徴となっています。

2007年の調査時点までは、男性の1番は「仕事の質」となっていたものが2012年調査時点では「職場の人間関係」に変化しておりました。これは、職場のIT化が定着してきたことでテクノストレスが以前よりも軽減しつつあるものの、企業における従業員の雇用形態が多様化するとともに、職場のコミュニケーションのスタイルが、従来型のface to faceのみならず、IT利用やSNSの活用等多様化する中で、ちょっとしたコミュニケーションギャップも生じやすくなっていることなどが一因になっているものと想定します。

現在の自分の仕事や職業生活での不安、悩み、ストレスについて、相談できる人がいる労働者の割合は2018年調査では 92.8%となっています。 ストレスを相談できる人がいる労働者について、相談できる相手(複数回答)をみると、「家族・友人」が 79.6%と最も多く、次いで「上司・同僚」が 77.5%となっています。また、ストレスについて相談できる相手がいる労働者のうち、実際に相談した労働者の割合は 80.4%となっています。実際に相談した労働者について、相談した相手(複数回答)をみると、「家族・友人」が 76.3%と 最も多く、次いで「上司・同僚」が 69.7%となっています。

これら複数の調査結果を重ねてみますと、職場のストレス要因としては、仕事の量的・質的負担感が継続して一定の比率を占める中で、職場の人間関係、コミュニケーションに関するものが多くなってきています。NHK放送文化研究所が実施した「日本人の意識」調査の結果では、職場の人間関係について、1973年当時の意識と2018年を比較すると、「なにかにつけ相談したり、全面的に助け合えるようなつきあいを望む」が59.4%から37.2%に減少し、「仕事に直接関係する範囲の付き合いを望む」が11.3%から27.1%と増加しているようです。

日本企業の古来からの風土であった「家族的で和気あいあいの雰囲気の職場」が欧米化して、「仕事は仕事、プライベートはプライベート」とセパレートして考える風土に変わりつつあるのが現状のようです。これらのどちらが良いとか悪いというのではありません。少なくとも従業員が強い不安、悩み、ストレスを感じたときに、気軽に相談できたりアドバイスしあったりといった相互支援体制が行き届いた職場、誰かが不安を抱えていたり悩んでいたりしていることを気づいてあげて優しく声をかけられる職場を目指すことに異論はないはずです。

他方、㈶社会経済生産性本部の2019年調査では、「心の病」を持つ労働者の割合について、

・増加したと感じる:32.0%(2017年調査時24.4%)

・横ばいである:54.7%(同59.7%)

と答えており、ここ3年間で増加傾向と感じ取られる人の割合が増えています。最大の疾患はうつ病(気分障害)で、最も多い年代層は2010年までは30代が約60%と突出し、40代が約20%、10~20代が約10%と続いていましたが、2019年の調査では50代を除くほとんどの年代層で約30%と変化が見られました。その原因としては、仕事の責任は重いが管理職への登用が期待できないといった状況が30代のみならず、40代でも顕著になってきたことや、20代までは一人前になるための養成期間と考えられていたが今は即戦力を期待されるようになってきたことなどが浮かび上がってきます。

一方、厚生労働省が毎年実施している国民生活基礎調査では、2019年調査結果からは、入院者を除く12 歳以上の者について、日常生活での悩みやストレスの有無をみると「ある」が 47.9%、「ない」が 50.6%となっています。 悩みやストレスがある者の割合を性別にみると、男性43.0%、女性52.4%で女性が高くなっており、年齢別にみると男女ともに 30 代から 50 代が高く、男性では約5割、女性では約6割となっています。

こういった状況下で、メンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合は約60%まで増えてきており、大企業ではようやくメンタルヘルス対策に取り組むようになってきたことが読み取れます。

 しかし、メンタルヘルス対策が十分に行われているかについては、まだまだであると実感しています。筆者は会社で長年統括労働安全衛生責任者を務めていた立場上、中央労働災害防止協会やメンタルヘルス関係の団体の会合に参加し、多くの企業の方々と交流し情報交換しておりますが、製造業や建設業などの安全対策の普及推進状況に比べると、メンタルヘルス対策についてはまだまだ不十分です。人事労務部門の方々からは「ストレスチェックは義務化されたので行っているが、結果をどのように活かせばよいかわからない」、「メンタルヘルス不調者が発生したときに試行錯誤している状況」といった話が多く聞こえてきます。厚生労働省や中央労働災害防止協会ではメンタルヘルスマネジメントについても安全対策と同様に「労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS:Occupational Safety and Health Management System)」に則って職場改善活動を行うよう推奨しておりますが、まだほとんどの企業は手探りの状態に留まっております。